村田佑輔ブログ◆天佑不待

役者・村田佑輔によるアレやコレやソレ

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「先見エヌ霧ノ彼方 -憂世茶屋之終-」

身体を串刺しにされ、血の池に沈められ、業火に焼かれ、蟲が己の臓腑を喰い破る。

其れを幾百度目と繰り返した頃、目の前にその光は現れた。

「次郎左衛門さんのお父さんですよね?!解ってるでしょ。早く来て!」

新手の餓鬼か獄卒か。その割には年端もいかず初心い娘子だ。
そう思った刹那、鈴の音と共に数珠に身体を絡め捕られた。




ふた月も、前の出来事だ。




「今日も沢山働いたねぇ」
「飲物の拵えも随分慣れてきたでありんす」

姦しい新造女郎たちが満足気に歩いている。

「花魁、此方の片付けは済みましたよ」

何時ぞやの団次郎と目鼻立ちの似た女楼主も笑顔を浮かべている。

あの時の若侍も、

あの読売の引継ぎ手も、

皆、笑顔で次郎左衛門の周りにいる。
そして光の導き手に再び誘われていったお清の姿がそこにあった。

「お清…次郎左…」

そう呟いた次郎兵衛の後ろ頭を猛烈に引っぱたく手があった。
「痛っ!」
「おい何呆けてんだクズ。おいクズ。無視すんなクズ!」
「む、無視はしておらぬであろう、次郎左よ」
「次郎左って言うな!俺はカゴツルベだ」

手に当てるその腰に、すでに刀はない。

「それで良いのか、カゴツルベ」
「ややこしいだろうが。それに、存外この名前が気に入ってんだよ」

背も歳も大きく変わらなくなってしまったもう一人の息子と次郎兵衛は、見返り柳に背を預ける形で一行を眺めていた。
「大体よ、イタコについて行かなかったのは手前じゃねえか。感傷に浸る位なら最後に母上と一緒に行きゃよかったんだ」
「この心も身体も所詮は残り香。直に消える。お主も本来は次郎左の中にいるはずなのだ」

最早、地獄にも黄泉にも己の居場所は無いだろう。だが消え逝く前にこのような光景が見られる。それだけで充分過ぎた。

「それに感傷に浸っているのはお主かもしれんぞ」
「あぁん?」
「先刻、お清を母と呼んだな」
「は?呼んでねぇよ」
「呼んだ」
「呼んでねぇって!手前、またぶん殴られてぇか!」

カゴツルベに胸倉を掴まれた次郎兵衛は、思わず笑った。
今生で一番の笑い声だった。

「な、なんだよ」
「いや、なに。次郎左が最後までお主を否定できなかった訳が何となく解った気がしてな」

このような手合いがずっと傍らにいれば。
その心に気付ければ。
己の霧の先も、見えたかもしれない。

詮無い事か。

「カゴツルベよ、次郎左を頼んだぞ」
「知らねえよ。アイツはアイツで勝手にやるだろ」

それでも、それでも。

『俺はお前で、お前は俺』
なのだろう

そう口にする直前に、光は弾けた。

二人とも驚いた。
まさか己がこのように、笑みを浮かべて最期を迎えることができるとは。











「次郎左衛門様?」
八橋に声を掛けられ、お清を見送った次郎左衛門は漸く我に帰った。
「あ、い、いや。な、何でもないんだよ」

お清とは別の、暖かい光の粒子が己に触れた気がした。




この世界は楽しい。

ただ、過ぎ去ってしまった「あの世界」も、いつか愛せるときがくるであろうか。

総ては必死に生きてこそ、

その先にこそ、答えはあるのだ。



〈終劇〉
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